60歳を過ぎると、本当に「労働力の市場価値」はないのだろうか? このことが前から疑問になっていました。
雇用でいえば、ただでさえ高齢者(この言葉は好きではありません)は年齢だけでふるいにかけられます。たとえば会社側で事務の仕事をハローワークの求人に出す場合、採用者の本音は30代の女性で、一般の事務(ずいぶんあいまいな言い方ですが、いわゆる経理や企画・法務など専門職ではないという意味で)をそつなくやってくれ、来客接待や電話応対、その他雑用をやってくれる人を望んでいる場合、60歳の事務的なキャリア(管理職など)のある人が応募してきても、年齢と経歴を見ただけで不採用にする意向が働くのは、当然かもしれません。
第一、年齢が上だと使いにくいしプライドが高い。細かいことに意見を言ってくる、動作がのろい、無理に残業させられない、管理職までやった人にお茶出しまで頼みにくい、電話に出るにしても女性の声の方がいいし、女性の方が職場も明るくなる、などなど。結局、求人側の定型的な「検索」(年齢など)にひっかかって、シニアの人はまず先に「足切り」にあうわけです。
いや、年齢ではなく個別の問題だと求人側は言ってくるでしょう。若い人を育て会社を支えていってもらいたい、そういう人を採用するのだと。しかし、若い人は会社とのミスマッチがあるとすぐに辞めてしまいがちです。逆に、高齢者は確かにこの先長い期間働けないかもしれませんが、それでも健康で意欲さえあれば65歳、70歳までは働くことが可能です。これまでのキャリアを活かせば、十分に後継者づくりにも事業発展にも貢献できるわけです。もちろん知識や経験、人脈などは若い人よりも豊富なはずです。どこに「市場価値」が劣っているのでしょう。
問題は中途採用の場合、ハローワークなどの求人項目が画一化されてしまっていることです。1回の求人で何十通も応募がくると、それだけで小さな会社は事務処理や面接で大変なことは分かります。だから画一的な基準でふるいにかけていく方が無難なのです。
しかし、これではシニアの再就職はほとんど望めないでしょう。法制度では希望すれば65歳まで再雇用が可能になったと言っても、それは余力のある大企業であって、小規模の会社は60歳以上の人を継続して雇用するほど体力がありません。この国は、これからは「高齢者をもっと活用すれば」年金財政も良くなるなどと、ずいぶん第三者的な言い方をしています。そんなことはとっくにわかっていることです。ではどうしたらいいでしょう。
まずは、ハローワークや求人サイトなどシニア向け求人を充実することでしょう。シニア向け求人は確かにありますが、ほとんどが低賃金のパートで単純労働のものばかりです。これでは定年後5年でも10年でも働き続けたいという人の意欲をそぎます。定年退職したんだから(退職金も年金も入るんだから)、なにもそんなに働くことばかり考えなくても、と言うかもしれません。しかし、そうしないとやっていけない人がまだまだ多いのです。
サイトなどで、求人側が求職する個人の特徴を検索できるような仕組みがもっと気軽にできればいいと思います。例えば、シニア向け「人材バンク」のようなものです。今でもあると思いますが、もっと敷居を低く利用しやすくし、シニアに向いた職種も幅広くする。そこでは働きたい人が積極的に自分をアピールし、経歴はもちろん、これからの生きがいや生き方、自分を生かしたい場などを求人側に対して気軽にサイトなどに登録します。個々のシニアの特性がわかれば、少しでも画一的な検索による「足切り」にあわずに済むかもしれません。
労働力の市場価値が60歳になって急速に落ちるとは考えられません。これは求人側の意識も変わらなければならないと思います。定年後の求職活動が長引いて就職できない求職者は、自分を活かす場がなくなるから仕事を諦めざるを得なくなります。それだからこそ、その人の市場価値も下がってしまうのです。これは本人にとっても日本の将来にとっても、とてももったいない話です。
2014.08.24