世界で車が売れなくなる日

●むなしきカー・オブ・ザ・イヤー

 今年の日本カー・オブ・ザ・イヤーはトヨタの「iQ」が受賞しました(同時にグッドデザイン大賞も受賞)。正直、次はカーシェアリングかレンタカーを利用すれば足りる、もう車を持つ生活とはお別れだと思っていました。しかし、この車を見て次の買い換えはコレだと思ったくらい気に入ってしまいました(ほんとに買い換えるかどうかは別ですが)。デザイン、機能性と燃費性、安全性、コンパクト(1000cc 全長2985mm)な割のユーリティティと高級感、環境への配慮、これだけすべてそろった車が150万円から買えるなんて画期的、さすが世界のトヨタ! と思わず言いたいところです。
― あの9月さえ来なかったならば・・・。

 

 「すべては、リーマンから始まった」―、とは言い切れません。確かに、実体経済はリーマン・ブラザース破綻の9月から急激に悪化しました。しかし、もう何度も言い尽くされたサブプライム・ローン問題は昨年以前から始まっていたのです。

 

 ビッグ3(GM、フォード、クライスラー)のCEOが公聴会で、3人首を並べて米国国会議員に食いつかれていました。「社用ジェット機で来た人は?」「ジェット機を売って、電車で帰ろうという人はいない?」。普段なら、こうした場面は、強い者いじめ好きの日本人にはけっこう受けるところです(その後、ビッグ3のトップは報酬を1ドルにし、社用ジェット機も売り払ったとか)。しかし、ビッグ3で340億ドル(3兆2000億円)の政府資金が必要だと聞いた時、背筋が寒くなる思いでした。日本は大丈夫なのか、と。

 

●明日からは自分の問題

 米国自動車が売れなくなる。世界中で自動車の需要が落ち込み、雇用がなくなる。日本の自動車も売れなくなり(日本車の輸出がなくなる)、自動車関連業界も巻き込み、大量の失業者が出ます。ことは、製造業界全体にも及んでいます。日本では、今年度中に非正規労働者3万人が職を失うであろうと言われています(厚生労働省12月発表)。もうすでに、来年3月までの雇用契約を12月で打ち切られ、いきなり「路頭に迷うか、死ぬ」(ある派遣社員のインタビュー)しかないような切迫した状況です。そして、大企業の正社員にも解雇通告が出始めています。

 

 今は、麻生首相はじめ政府官僚は、「百年に一度」と言われる未曾有の金融危機のせいばかりにしている場合ではないでしょう。麻生首相は、賃金アップと雇用保険の料率下げを同時に経済界に訴えていましたが、この両者が両立する状況ではないのは素人でも分かります。まず、雇用確保です。

 

 政府はようやく、追加雇用対策を発表しました。今後3年間で2兆円規模の事業費を投入して140万人の雇用の下支えを目指すといいます。2兆円といえば、「天下の愚策」と言われた定額給付金と同じ額です。何週間ももめたあげく、税金をばら撒くようなことをしないで、なぜ景気対策、雇用対策に早く取り組まなかったのかと思います。経済は政策を待ってくれません。迷走と同時にスピード感がないのも内閣不支持の原因でしょう。

 

 明日にもまた解雇者が出ると、誰しも自分は大丈夫かと思うでしょう。「クビを切る」という言葉は、恐ろしい言葉、恐ろしい文字です。「解雇」という意味で、こんな戦慄的な言葉を使うのは日本語だけではないでしょうか。食べるため、寝るためのお金の手段を取り上げられてしまえば、まさしく、その言葉通りになってしまう状況にあるのです。

2008.12.10

 

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