外貨建て終身保険でトラブルが起こる理由

2019/04/29

 

金融商品のなかでも、身近なのに難解な仕組みのものが保険商品である。特に外貨建て終身保険は、保障の安心と運用の儲けを同時に期待できる分、その仕組みは難解だ。身近なものであるからこそ仕組みは単純なものであってほしいが、現実には高齢の申込者と金融機関との間でトラブルが絶えない。そもそも保険で保障と運用を掛け持ちする意味はあるのか。外貨建て保険という商品性について考えたい。

■高齢者が外貨建て終身保険に申し込むワケ
高齢の申込者とのトラブルが続く状況を受け金融庁も昨年来、特に外貨建て保険について、銀行や生命保険会社に対して監督強化に乗り出している。問題となっているのは、販売側が金融商品のリスクをきちんと説明せずに顧客(特に高齢者)に販売していることだ。株式のようなリスク商品と違って、生命保険はほとんどの人が生活において必要とするものである。だからこそ、当人にとって「損する」という感覚は発生しづらい。

老後の人生に向かって、大抵の人には保障も運用も必要なものと言える。だから、この2つの要素がひとつになっていれば都合がよく便利だ。いつでも保障があって、しかもその資産も増えていく。保障性と貯蓄性が同時に合わさっていれば、今の高齢者にとってこれほど頼れる商品はない。それでつい販売側の言うことを鵜呑みにして申し込んでしまう。

外貨建て終身保険はまさにそんな商品である。国内保険に比べ保険料も安く、積立利率(予定利率)も高い。外貨建て保険を申し込むと、米ドルやユーロなどの外貨で積み立てられる。この積立利率は現在2~3%なので、国内の定期預金と比べたら圧倒的に高い。それに最低利率は保証されている。なのにトラブルの元となっているのは何か。簡単に言うと、外貨建て保険には元本割れがある。

■為替リスクから生じる元本割れ
ではどこにリスクがあるか。それは外貨を円に戻す時である。為替レートが円高になっていると、積立利率の利息分がとんでしまう。それどころか当初預けた金額が元本割れすることもある。外貨で運用している以上、為替レートの影響を受けるのは仕方ない。パンフレットにもそう書いてある。問題はそのリスクを販売時にきちんと説明しない場合があることだ。

ほかにも、解約による元本割れがある。一時払いで外貨建て終身保険を申し込んだ後に解約すると、申込みから一定年数経たないと返戻金が目減りすることがある。これが申込者にとっては「元本割れ」と捉えられる。このことも案内書には明記されている。

しかし、ほとんどの人はその仕組みを理解できていない。1,000万円も一括で払ったら、本人は貯蓄感覚でしかない。いつでも丸ごと現金にできると思っている。実際、保険と知らずに預金と思って申し込んだ人がトラブルになっている。

■保険に求めるもの
保険商品は身近なのに仕組みが複雑すぎる。商品説明書を、金融知識のない高齢者に自分で読み解けというのは無理がある。販売側がきちんとリスクを説明し、本人の納得の上で申込みを受けるべきである。それだけでトラブルはずっと減るはずだ。それをしないのは営業成績が絡むからだろう。

もちろん、申し込む側にも問題がある。そもそも申込者は保険に何を求めているのか。言うまでもなく保障である。これが外貨建てとなると死亡保障以外に貯蓄性や運用性まで期待を持たされてしまう。単に保障だけなら円建て保険でも足りるし、外貨建ての商品を求める必要がない。保障に加えて運用、ここが高齢者の盲点、落とし穴であるのかもしれない。

高齢者はいくらお金があっても、寿命が減っていくのと比例して資産が減っていくのは耐えがたく不安である。極端に言うと、70歳で1億円あったら、死ぬ時もその1億円がそのままあるのが理想だ。死ぬまでに増えていればなおのことよい。外貨建て保険というのはそれを叶えてくれそうな商品に思える。高齢者でなくても申し込みたくなる。

■保障性と運用性の両立は為替次第
保険は、シンプルな仕組みほど商品性がいいと言えるだろう。だが、わかりにくいものほど一般の人間にとって魅力的に見える。終身保険で10万米ドル(4月20日換算でほぼ11,190,000円)一括で申し込むと、契約時の積立利率は年2%くらいある。これだけを考えても、投資信託には及ばないものの価格変動リスクがない分、運用性は十分と言える。それに死ぬまで10万米ドルの保障に守られている。払い込んだ保険料が減らずに、むしろ増えて現金化できるならば、この上ないことのように思えるはずだ。

しかし、外貨建て商品で最もリスクなのは為替レートである。上記のうまい(?)話では、申込時から円受取までの例えば30年間、為替レートが変わらないことを前提としている。実際には、こんなことは絶対ない。30年間、レートは日々変わる。

現在の為替レートは30年後には円高、逆に円安のどちらかになっている。問題はそのレート幅だ。円高になれば、受け取る金額が支払った時より減り(為替差損)、円安になれば受け取る金額が支払った時より増える(為替差益)。また、円高で損するなら途中で解約すればいいという方法もあるが、この商品は保障が目的であるから、一定期間以内に中途解約すれば戻る金額も減るし、そもそも保障さえなくなる。

■費用と利回りは大事な要素だ
さらに保険商品には大事な要素がある。費用と利回りだ。必要な保障を得るのに本当はいくらかかっているか。保険に関わる費用は、見た目ではわからないところで結構かかっている。

例えば外貨建ての一時払い終身保険のある商品を見てみたい。契約時だけでも、一時払い保険料1,000万円から基本保険金額10米ドルにつき0.04米ドル(0.4%)、それと別に一時払い保険料の5.50~7.00%の額が控除される。これだけでも60~70万円引かれている。このほかにも契約の維持・死亡保障に要する費用として、基本保険金額10米ドルにつき0.02米ドル(0.2%)が責任準備金から毎年控除される(年に約2万円)。しかも、これらの金額は手数料として別途払うのではないから、費用として認識されにくい。

次に、保障性以外に運用性も求めるなら利回りを考えてみるのは当然のことだ。いくら払って、30年後、40年後にいくら戻ってくるかを計算してみる方法がある。だが、保険会社では商品の実質利回りはなかなか公開されてこなかった。積立利率2%と言っても、実は費用控除後の保険料からはじいた「盛った」利率である。今後は監督強化により実質利回りが資料に明記されるはずだから注意すべきところだ。

老後は余裕を持ちたい。そのためには保障も運用同様に「外貨での分散」ということが言われたりする。外貨建て保険の仕組みがわかっているならその選択もよい。ただ、手数料や利回りのこともよく検討してみよう。そしてあえて言うならば、保障と運用の掛け持ちは意味があるかということだ。さらにリスクに関しては、為替が少しでも気になるなら外貨建て商品は選ばないことである。死亡保障が為替で変わってしまっていいのか、よく考えておきたい。

 

 

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