公的年金
■今もらうと得するという心理的行動
●年金は早くもらうと得?
代表的な行動経済学の理論の中に「現在(志向)バイアス」(Present Bias)があります。現在バイアスとは、人は将来得られる利得より、現在得られる利得をすぐに欲したがる、というものです。
これに関連して、公的年金の繰上げ・繰下げについて考えたいと思います。現行制度での公的年金は、本来受給が65歳です。65歳より早く受給したい人は、60歳まで前倒しで早くもらうことができます(年金は減額)。これが「繰上げ受給」です。一方、70歳まで後ろに倒して遅くもらうこともできます(年金は増額)。これが「繰下げ受給」です。
繰上げの場合、「早く受給する方が得」と思うのは、利得が目前にあればあるほどその効用は大きくなるからです。つまり、60歳でもらえる年金額は65歳でもらうより、本人にとってはるかに満足度が高い(経済的効用が大きい)ものなのです。
●遅くもらうとどうなる?
繰下げの場合、最大の問題は、受給の開始時期まで年金がもらえないことです。65歳でもらえる年金を70歳まで繰下げたら、その期間は無年金になります。そのうえ、繰下げしたときの受給総額が65歳から受給したときの受給総額を上回る(82歳)まで生きられるという保証はありません。
将来の方が多くもらえるとわかっていても先のことは分からない、だから今もらえるものは今もらう。繰上げ受給者(受給者全体の34.1%)に比べ繰下げ受給者(同1.4%)の方がはるかに少ないのも、実際の損得や生活の逼迫性は別にしても、現在バイアスと同じ心理からでしょう。
逼迫した生活者にとっては、減額されても目前で手にできるお金の効用は大きい。単に生活費として必要というだけでなく、減額の大きさよりも本人の効用の大きさの方が確実に上回るからです。逆に、将来の増額分が本人の効用(心理的満足度)より下回れば、繰下げ受給する者はいないでしょう。
【対策】
現実問題としては、この増額率・減額率の大きさと効用の大きさを冷静に分析して選択することが重要になります。